「肩力」を再考する

Introduction

パワプロにおける「肩力」（かたりょく）は、「走力」と同様に以前はある程度の実績ができるまで低めに査定される傾向がありましたが、最近では入団時から身体能力に応じた査定がなされるようになりました。
その際に参考にされる項目として「遠投」があります。これはドラフト対象選手でプロフィールに記載されていることが多く情報が得やすい点で便利で、地肩の強さの評価には有用です。
しかし実際の試合では、外野手以外は「遠くに投げる」スキルはあまり求められず、短い距離を強く正確に投げることが必要とされます。

他の指標として、MLBではStatcastで”Arm Strength”というパラメータで公表されており、年毎の推移もわかります。
”Arm Strength”に対応する指標はNPBにはありませんでしたが、先週リリースされたNPB+のパラメータのひとつとして「最高送球速度」が公表されました。

今回は、「最高送球速度」と「肩力」の関係をみてみようと思います。

Methods

2025年レギュラーシーズンで、各守備位置の規定守備イニングに到達した選手を対象としました。

調査項目は、基本項目の刺殺・補殺等に加え、捕手は盗塁・盗塁阻止・rSB、内野手はDPR、外野手はARM、最後に最高送球速度（km/h）としました。

基本項目はNPB公式サイト、セイバーメトリクス指標はDELTA社、最高送球速度はNPB+、パワプロ能力は現在最新の2025 ver1.12から取得しました。

Results

Table.1 規定守備イニング到達捕手の成績

選手	試合	刺殺	補殺	SB	CS	CS%	rSB	最高送球速度	肩力	守備力	送球	備考
坂倉　将吾	97	626	51	59	13	.181	-3.0	163.8	69	48	D	一塁出場あり
石伊　雄太	85	506	56	27	19	.413	1.8	144.7	83	44	D
山本　祐大	93	635	68	42	19	.311	0.7	141.1	84	57	C
古賀　悠斗	112	704	70	63	18	.222	-0.1	138.9	82	59	C
古賀　優大	85	584	64	30	30	.500	4.0	137.8	77	53	C
若月　健矢	118	773	85	57	16	.219	0.6	137.8	86	65	C
寺地　隆成	77	512	65	68	10	.128	-3.4	133.6	58	40	F	一塁出場あり
太田　光	111	519	67	37	23	.383	4.6	132.3	73	78	B
海野　隆司	105	670	66	41	15	.268	1.2	132.3	77	55	D
坂本　誠志郎	115	785	84	38	17	.309	-0.9	125.0	55	62	B

Table.2 規定守備イニング到達内野手の成績

守備位置	選手	試合	刺殺	補殺	失策	併殺	守備率	DPR	最高送球速度	肩力	守備力	送球	備考
二塁手	牧原　大成	104	182	257	6	53	0.987	0.3	157.7	62	70	C	外野出場あり
三塁手	佐藤　輝明	111	91	160	6	15	0.977	0.9	150.6	71	49	D	外野出場あり
遊撃手	小幡　竜平	84	142	210	8	40	0.978	0.2	148.1	79	59	C
遊撃手	矢野　雅哉	107	138	233	8	37	0.979	-1.3	147.6	87	80	C	二塁出場あり
遊撃手	紅林　弘太郎	115	186	312	7	67	0.986	0.3	145.6	77	41	C	三塁出場あり
二塁手	藤岡　裕大	93	172	238	5	42	0.988	0.4	144.7	80	63	B
二塁手	吉川　尚輝	106	237	328	6	63	0.989	1.3	143.9	61	82	B
一塁手	ボスラー	104	856	74	5	76	0.995	0.4	143.1	53	55	D	三塁・外野出場あり
遊撃手	宗山　塁	116	166	311	12	60	0.975	0.8	142.6	72	61	D
一塁手	ネビン	121	1047	98	6	82	0.995	-0.1	141.9	75	61	E
遊撃手	友杉　篤輝	116	115	258	8	38	0.979	-0.3	141.6	59	81	D
遊撃手	源田　壮亮	103	143	249	5	44	0.987	-0.5	141.1	69	71	B
二塁手	牧　秀悟	93	201	280	6	49	0.988	-0.5	139.7	78	51	D	一塁出場あり
一塁手	オスナ	141	1114	73	7	82	0.994	0	139.5	78	52	D
遊撃手	泉口　友汰	132	177	346	11	63	0.979	1.2	139.0	60	66	C
三塁手	宗　佑磨	98	61	150	6	18	0.972	0.3	139.0	92	51	D
三塁手	清宮　幸太郎	91	75	140	12	10	0.947	-0.1	138.6	62	53	E	一塁出場あり
遊撃手	水野　達稀	92	120	228	13	41	0.964	1.2	138.4	58	56	D	二塁出場あり
二塁手	田中　幹也	92	210	293	6	60	0.988	1.1	137.9	46	79	B	遊撃出場あり
二塁手	太田　椋	101	217	272	7	64	0.986	-0.5	137.8	70	53	D	一塁出場あり
二塁手	菊池　涼介	112	205	281	5	43	0.99	-0.3	135.8	76	69	B
一塁手	大山　悠輔	140	1203	65	6	79	0.995	0.2	135.0	73	63	D
三塁手	安田　尚憲	90	60	108	7	10	0.96	-0.4	134.9	60	61	B	一塁出場あり
二塁手	小深田　大翔	114	186	255	4	39	0.991	-0.7	134.2	45	63	D
二塁手	中野　拓夢	142	309	439	2	63	0.997	-1	133.4	51	69	B
三塁手	村林　一輝	104	55	139	7	8	0.965	-0.8	132.9	69	62	D	二塁・遊撃出場あり
三塁手	栗原　陵矢	77	64	131	7	15	0.965	0.7	132.4	62	71	C	一塁出場あり
二塁手	石井　一成	102	190	263	5	46	0.989	-0.5	130.8	75	66	C
二塁手	山田　哲人	96	193	233	4	46	0.991	-1.5	130.0	65	65	B
一塁手	モンテロ	100	749	59	7	55	0.991	-0.1	129.6	68	44	D
一塁手	中村　晃	89	647	61	5	55	0.993	-0.3	126.7	53	50	C
三塁手	宮﨑　敏郎	87	38	134	8	10	0.956	-0.3	126.5	56	27	C
一塁手	頓宮　裕真	126	992	82	7	90	0.994	-0.1	122.1	72	49	E
一塁手	浅村　栄斗	78	558	31	8	56	0.987	0.2	119.7	61	37	C

Table.3 規定守備イニング到達外野手の成績

守備位置	選手	試合	刺殺	補殺	併殺	ARM	最高送球速度	肩力	守備力	送球
右翼手	長谷川　信哉	130	272	2	1	0.2	164.2	68	65	C
右翼手	森下　翔太	141	312	5	1	5.2	158.5	64	64	B
左翼手	西川　史礁	103	210	9	2	1	158.5	64	49	D
中堅手	髙部　瑛斗	100	226	3	0	-3.7	158.4	59	68	C
中堅手	周東　佑京	96	249	5	2	3.6	157.1	63	74	D
中堅手	西川　愛也	124	295	3	1	1	156.6	72	71	C
右翼手	万波　中正	119	223	4	1	-1.8	156.4	96	67	B
右翼手	山本　大斗	101	188	5	1	-2	156.4	70	47	E
左翼手	細川　成也	103	181	2	0	-3.6	156.3	73	42	D
中堅手	岡林　勇希	143	346	2	0	0.2	156.1	80	65	B
左翼手	ファビアン	129	234	4	0	-3.9	155.9	75	51	F
中堅手	辰己　涼介	114	330	6	2	4.1	155.8	88	60	D
中堅手	五十幡　亮汰	112	180	1	0	1.5	153.9	83	58	D
右翼手	杉本　裕太郎	88	136	1	1	-1.9	152.7	80	39	D
中堅手	岩田　幸宏	119	272	4	0	-0.9	152.6	55	67	D
中堅手	近本　光司	138	333	5	2	-2.4	152.6	41	89	C
左翼手	内山　壮真	108	207	4	2	-0.9	151.8	64	56	C
左翼手	渡部　聖弥	103	192	4	0	1.9	151.0	76	42	C
右翼手	蝦名　達夫	107	147	6	1	1.2	150.6	71	50	D
右翼手	末包　昇大	114	230	4	0	-1.4	150.5	71	44	D
右翼手	上林　誠知	124	204	6	2	-1.5	148.7	76	62	C
中堅手	桑原　将志	104	197	2	2	-2.7	145.6	53	74	D

Figure.1 各守備位置ごとの最高送球速度

Discussion

まずTable.1～3までの最高送球速度を見てみると、坂倉選手と長谷川選手は2番目以降の選手と差がありすぎるため、誤計測の可能性があります。

またFigure.1によると、助走をつけて投げることができる外野手は他の守備位置に比べて送球速度が出やすく、内野の中ではステップを踏んで投げる遊撃手は速度が高い傾向がありました。

守備位置ごとにみてみると、捕手は誤計測の可能性がある坂倉選手以外ではルーキーの石伊選手がトップでした。社会人時の遠投115m、二塁送球1.9秒以下という前評判以上の結果といえそうです。最高送球速度の分布からは、135km/h以上で肩力Aの資格がありそうです。

内野手は遊撃手、二塁手・三塁手、一塁手で分布が異なりました。
そもそもプロで遊撃を守れる時点で強肩だと言えますが、その中でも145km/hを記録できる選手は貴重といえます。また地肩が強くなさそうな印象の源田選手の送球速度は141.1km/hであり送球にいたるステップやフォームも重要なのかもしれません。

一塁手は右投げだと反転してから送球することになるので、他の内野に比べて送球速度は低い傾向になりました。そのなかでもネビン選手は141.9km/hを記録しました。ネビン選手は2024年にMLBで一塁・三塁・外野を守りArm Strength：93.7mph（150.9km/h）を記録しました。これが外野での送球を含んでいるなら、2025年のNPB+のデータは妥当ではないかと考えます。

外野手では誤計測の可能性のある長谷川選手以外では森下選手がトップでしたが、150キロ後半に強肩の印象がある選手が集まりました。
分布からは155km/h以上で「強肩」と言えそうですが、遊撃手と同じでステップやフォームも重要そうで、守備力とあわせて判断する必要がありそうです。

今回のリミテーションは、肩力の年毎の変動は少ないと考え、2025年決定版データのアップロード前ですが、2025年の結果と比較しました。
また規定守備イニング以上で比較したため、サンプル数は少ないです。